劇団黒テント「パビリオン」

出演している宮地成子さんの紹介で鑑賞。実は黒テントを見るのははじめて。

今回の作品は「日本・セルビア演劇交流プロジェクト」ということで、セルビアの劇作家であるミレナ・マルコヴィッチが書いた脚本を、同じくセルビアのジョルジェ・マリアノヴィッチが演出し、劇団黒テントが演じるというもの。

セルビア(というより旧ユーゴ)といえば僕が最初に思い出すのはやはりエミール・クストリッツァなわけで、あの騒々しくも陽気な狂気、暴力的でありながらどこまでも人間的な一連の映画を思い浮かべながら、この作品もきっと僕の趣味にあうんだろうなと予想はしていた。フライヤーを見てもそんな雰囲気だったし。で、そんな事前の予想や期待は、概ね当たっていたのではないかと思う。

この劇にでてくる登場人物たちもまた暴力的な狂乱の中に生きている。内戦で荒廃した街のとあるマンション。そこに暮らす退廃的にしか生きることができない人たち。それこそクストリッツァの映画がそうであるように、道徳的、あるいは社会通念的には正しくない人たちの生き様が、あふれんばかりのユーモアの中で、でもそのユーモアは実は「狂っている」ことを自覚しつつ、目一杯の愛情を込めて描かれる。そのどこか諧謔的でありながらも人間を愛することを止めない姿勢はまさにクストリッツァと共通するものだったし、少なくとも原作には、高潔なリベラリストには決して描くことのできない、人間の感情の生々しさが見事に描き出されていたと思う。

ではそうした原作の世界観が演劇の中で充分に表現されていたのかというと・・・それは残念ながらやはり日本語劇としては難しい部分もあったんだろうな〜というのが正直な感想。

一番不満に思ったのは登場人物たちがあまり「悪人」に見えないこと。これは黒テントさんがしっかりした劇団であるがゆえの課題なのかもしれないけど、台詞、というか発声自体がすごくキレイでしっかりしているだけに、最初からこの人たちは実はいい人なんじゃないかって風に見えてしまうんだよね。なかでも中心人物であるジガとクネーズは全然狂気の人に見えなかった。これは(僕的には)かなり残念なポイント。

もうひとつはやっぱりテンポの問題で、これは翻訳の問題かもしれないし、映画と演劇の作法の違いに過ぎないのかもしれないけど、あのクストリッツァ的な喧騒を期待している身には、台詞回しや身体の動きそのものが若干「遅く」感じてしまうんだよね。そんなん勝手に期待されても知らんがなってことだろうけど(苦笑)

でもあの内容をやるのであれば、もっともっとうるさく、喧騒的で、ハイテンポな言葉が飛び交う演出にしたほうが良かったんじゃないかな〜とは思ってしまう。ばかばかしいまでの狂騒ぶりがあってこそ、登場人物が内省的になったときの「痛さ」が伝わってくるんだと思うから。

そんなわけで僕個人の趣味志向からするとちょっとだけがっかりなポイントもあるにはあったんだけど、それでも演劇としてはたいへん面白かったです。そもそもこの原作を取り上げて上演すること自体が文句なく素晴らしいチャレンジだと思うし、上に書いたような若干の不満はありつつも、その土地が持つ匂いとか、そこに暮らす人々の、その人々なりの切実な思いとか、そういう(たぶん)原作の中でも一番大事なポイントはちゃんと伝わってきたと思う。さすがに実力あるな〜と思ったし、大胆な美術のアイデアもとても良かった。

あと、これは知り合いだから贔屓目でいうわけじゃなく、宮地さんは凄かった。なにせあの舞台の中で唯一しっかりと「悪人」に見えるんだから(←褒めてます)。
いろっぺー網タイツにもぐっときましたが、なぐられるシーンで唯一危なっかしい倒れ方してたのにもぐっときました。なんか体張ってるな〜って。直接いうのは照れるからここだけにしとくけど、あーたカッコ良かったよ。惚れ直したぜ!!

というわけで、色々いいつつも、すごく好みの本を上演してくれたことに感謝。黒テントさんの芝居は今後も追いかけていきたいと思いました。