川の底からこんにちは

18日火曜日、ユーロスペースで。

満島ひかり主演、ということもさりながら、強烈なインパクトのある「社歌」の予告編で気になっていた作品。監督はPFFアワードでグランプリをとって注目が高まっている石井裕也

結論からいえば、とても好感のもてる佳作だった。

「頑張る」とか「頑張れ」という言葉が避けられるようになったのはいつごろだったか。精神的に落ちてる人(とか時期とか)に「頑張れ」って気易く言うなってのはその通りだと思うが、そうではなく「頑張る」ことそのものを「格好悪い」こととして忌避する雰囲気。頑張り屋さんという言葉に込められるちょっとした蔑みのニュアンス。

しかしこの映画は、堂々と「頑張れ」と主張する。

上京5年目、5つ目の職場、5人目の彼氏。満島ひかりが演じる主人公の人生はまさに「どんずまり」。なにに対しても「でもそれって、しょうがなくないですか」という言葉しかでてこない、しょうもない、しかしどこにでもいそうな女性。その彼女が、病に倒れた父親のあとを継ぎ、シジミのパック詰め工場の経営に取り組む。癖のつよい「おばさん」、まったく役に立たない(うえにゴニョゴニョ…←ネタバレしないよう伏字)な彼氏、田舎に帰っても「どんずまり」な彼女の生き方が、単なる「しょうがない」から、「しょうがないから頑張る」に変わっていく。

「中の下」

この映画のキーワード。当たり前の話だが世の中の半分の人は平均以下なわけで、ただここでいわれているのは単にそんなことではなく、そんな風に自己評価を低く見積もらざるをえない人たちが現代の日本にはたくさんいるってことだ。そして、この映画は、そんな自己評価の低い人たちに向けた熱烈な応援歌なのだと思う。

愛のむきだしでも炸裂していた満島の長口舌は今回もまた圧巻。むきだしほどの狂気は感じさせないものの、「中の下」であった彼女が、「中の下」であることを引き受けつつ、それでも「頑張るしかないじゃないか」と熱弁をふるうシーンは、彼女にしかできない名場面だと思った。というか、ひょっとして満島ありきのあてがきなのかってぐらい、満島さんにはまった役だったよね。

「あーーー、もうやっぱむかつく!」といいながら、とあるものを投げつけるラストシーンもとても好き。全体としてはコミカルに仕上げつつ、懐には熱いメッセージがある。石井裕也監督、またひとり期待の若手監督がでてきたんだなって印象でした。

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