トラッシュマスターズ「奇行遊戯」

最初から結論めいたことを書くけど、とても良かった。これまでのトラッシュの舞台の中ではダントツに良かったし、他の劇団さんも含め僕がこれまでに観てきた(数少ない)演劇の中でもベスト級。

トラッシュの舞台はこれまでにも3本?4本?それぐらい見ていて、その志の高さに感心しつつも、いつも何かしらいいたいことがあった。特に中津留さんの問題意識には自分と重なるところが多く、重なるだけに「そこは認識が違うでしょ」とか「そこはもっと真剣に調べないとダメ」とか、演劇・演出以前のところで評価が辛くなりがちだったと思うし、特に疑問だったのが、中津留さん独特の照れというか、僕は自分自身がそういうタイプなだけにとても良く分かる気がしてるんだけど、超真面目なことをドンと言ったあとに自分でそれを茶化すような、ある意味「ニヒルなポーズで逃げてる」部分があったと思う。

しかし今回は違う。

真正面からの直球勝負。どうだ、これが俺がいいたいことなんだという気合いがビンビンに伝わってきた。

テクニックとしても上手くなってと思う。2時間45分もある長尺の劇だが、物語の推進力が最後まで持続しているのであまり長くは感じない。色々な人、劇団との仕事で経験を積んだことで、中津留さんの脚本は(とても良い意味で)こなれてきてる。役者の力量も上がっていたと思う。吹上君もいろいろ悩んだらしいけど、あの難しい役どころを立派に演じてたと思う。かっちょいい美術やテロップの使い方も健在。

しかしそんなことより、僕は(僕が見た範囲では初めての)中津留さんの正面突破ぶりに大いに感応してしまった。人種差別、部落差別、いじめ、DV、日中間の感情的対立、環境問題と文化の軋轢。すべての中心にあるのはコミュニケーションの不全に関する問題。決して分かり合えることのない人たち。あらかじめ約束されている破綻。しかし今回の中津留さんは、それらの問題を、最後の最後、私たちに残る善意としての「愛」の力で強引に突破してみせる。なにが何でも生き抜こうとする主人公二人の最後のシーンは不覚にもちょっと泣きそうになった。ものすごくベタな演出。ものすごく煽る演出。くどいし、くさいし、もう普段のひねくれ坊やな僕だったら鼻白みそうになるシーンなのに、なぜだか圧倒的に感動してしまった。きっちり積み上げられた脚本と本気になった役者、演出家がいれば芝居にはここまでできるんだ、ちょっと大袈裟かもしれないけど、あまり演劇慣れしてない自分には、そう思えるほどのラストだった。

終演後、狛江のいつもの店で顔をあわせた吹上君は、「中津留はこれで賞を取るかもしれません」と言っていた。ぜひそうなってほしいと思う。これだけのことをやってしまうと次が大変かもしれないけど、中津留さんとトラッシュマスターズには、これからも注目です。