LOVE展

森美術館の10周年記念展。行った人たちからはとても良かったと絶賛する声が多く、玄人筋からはお金いっぱいあってずるいという嫉妬にも似た声が聞こえていましたが(笑)、なるほどたしかに凄かった。



副題に「シャガールから草間彌生初音ミク」までとあるように、時代も作風も異なる作品群を「愛」というテーマで貫いた構成は見事。そもそもこの時代に「愛」とか言いだす勇気が凄いと思うんだけど、その難しいテーマに対し、怯むことなく、真正面から向き合う。しかも、難しそうなしかめ面ではなく、あくまでもエンターテイメントとして、誰もが共有できる物語として、5章仕立ての展覧会を構成する。笑って泣いて、ぞっとして、どきっとして、また泣いて。まるで映画を観ているかのように、感情が揺さぶられる。


なかでも南アフリカの「視覚のアクティビスト」、ゼネレ・ムホリの写真とドキュメント映像を中心に構成された最終章「広がる愛」は強烈だった。黒人レズビアンという自己のアイデンティティと向き合うザムレの、真摯としかいいようのない生き方。態度。そして彼女が捉えた性的マイノリティたちの目線の強さ。気高さ。ポートレイトと対面する位置に置かれた森淳一のマリア像はグロテスクなようであり、ザムレたちを深く赦そうとしているようでもある。聞こえてくるのは理想を謳うジョンの声。そのどこか陽性な響きとは対照的な、chim↑pomの絶叫。その切実さ。切なさ。被災地で叫ぶ彼らの声が空に吸い込まれていく。石川真生が映し出す「オキナワ」のリアル。包容の優しさ。儚さ。草間さんの極彩色。そしてセクションの最後に提示されるのは、「わたしもあなたの空の下で生きている」というメッセージ。やられた。震えた。正直ちょっと涙こぼれた。



他にも、もう何度も観てるのに岡本太郎の「痛ましき腕」にはやっぱり胸が張り裂けそうになったし(ちなみにこの作品は私が本格的にアートに興味を持つようになったきっかけともいえる作品で、好きとかなんとか、そういう言語では語れないぐらいに思い入れがあります)、ビデオに映った息子に語りかける母親には心底ぞっとしたし、女性を怒らせない「コツ」を52個も並び立てる映像に大笑いしたしと、2時間以上、たっぷりと楽しませてもらいました。喜怒哀楽、さまざまな感情を行き来しました。

真摯な思索と溢れんばかりのサービス精神が融合した、とても南條さんらしい、森美術館らしい展覧会だと思います。うますぎてむかつくとか、分かりやすさ優先で深みがどうたらとか揶揄する人もいるかもしれませんが、私は素直に、森美術館10周年にふさわしい、森美術館の10年間の歴史の中でも最高の展覧会だと思います。いまこういう展覧会がつくれるのは森美術館だけだもんな(と書きながら、森美術館ピクサー説という語り口を思いついたけど、もう長いので省略しますww)

改めて、10周年、おめでとうございます。あと2回ぐらい行くと思います。