それでも夜は明ける

この映画が作られたこと、アカデミー賞で作品賞を取ったことは大変に意義のあることで、パラマウントに断られながらも資金集めに奔走したブラッド・ピットには心から尊敬を捧げたいし、この作品に作品賞を与えたハリウッド、アカデミー会員たちの良心も賞賛したい。ただ映画として面白かったかというとそれはまた別問題で。。。

良かった点からいえば役者たちの迫真の演技と音楽かしら。主演のキウェテル・イジョフォーの声、渋かったな〜。マイケル・ファスベンダーの悪辣っぷりが話題になっているが、個人的にはポール・ダノの小心者ゆえに偉ぶる感じも印象に残った。いるよな〜、ああいうやつ。そして誰もが痛みとともに思い出さざるをえない、あの圧倒的な長回しをやりきったルピタ・ニョンゴも。

脚本や演出だって悪くない。この強烈な話が「実話」であること、その重みがずしりと響く重厚なつくり。過度な説明、扇情を避けつつ、流れるような抑揚で最後まで飽きずに見させる。あれ、おれ、この映画のどこがいまいちなんだっけ??

たぶん不満という不満が特にない、優等生的な映画であることが不満なんだろうな。例えば同じ黒人奴隷を描いたジャンゴは、そりゃまあタランティーノなんだからそうなるわけだが、どこか不謹慎な雰囲気がありつつも映画ならではの爽快感があった。勧善懲悪エンターテイメントだけが映画じゃないことぐらい百も承知だし、どちらかといえば僕は難解な映画を好む傾向にあるほうださえ思うのだが、それでもやっぱりこの映画よりジャンゴの方が好きだと思ってしまう。

それはたぶん、ジャンゴの方がエンターテイメント的だということではなく、この映画のなかにある「正しい人」あるいは「正しい行い」に対する確信の揺るぎなさみたいなものに一種の倦怠を感じてしまうからなのだろう。もちろんこの映画が述べていることは正しい。文句なく正しい。ただ、あまりにも正しいため、観ていて思考が揺さぶられるところがない。

隙がないプレゼンテーションは意外と退屈だったりする。こんな労作に難癖(これぞ難癖だ!!)をつけるのはいかがなものかと自分でも思うのだが、僕にとってこの映画は、とても良く出来ているけどひっかかりのない映画だった。