グレッグ・イーガン『ゼンデギ』

イーガンファンからは物足りないという声が多いようだ。それもよく分かる。

イーガンのトレードマークというか、他の作家にない特異点は、いうまでもなく超難解かつ精緻な科学理論にある。最先端の物理、数学理論を駆使しながら、どこまでも自由に飛躍する想像力。そしてその精緻な理論が、なぜか陶然とするような文学的快楽を生み出してしまう。多くの人が指摘するとおり、本作ではそうした意味でのイーガンの特異性は発揮されていない。

でもね、僕はこれはこれで好きよ。

僕がイーガンを愛してやまない理由は、ハードSFとしての独創性と、純文学としての叙情が同居しているところにある。そして科学的精緻さとともにイーガンの突出した特色となっているが、言葉にすると実にチープなのだが「優しさ」だと思う。それは決して甘ったるい優しさではなく、そう、僕にとって永遠のフェイバリットであるヴォネガットにも通じる、ヒューマニズムを深いレベルで信頼する、優しさ。本作はそれが前面にでた佳作だと思う。

次の『クロックワーク・ロケット」が超難解路線らしいので、その前のウォーミングアップとしてもとても良かった。さあ。クロックワーク読むぞ!!

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)