おとなの事情

【途中で激しくネタバレします、ネタバレ前にもう一度警告いれます】
春の陽気に誘われてふらふらと映画館へ。こういうことができる普通の週末を待ち望んておりました。向かったのは新宿、シネマカリテ。大好物のワンシチュエーション会話劇ということで気になってた「おとなの事情」。

ホームパーティに集まった幼馴染の男子4人(といっても中年ですが)と、それぞれのパートナー(ただしひとだけ単身=男4人、女3人)。イタリア人らしいというかなんというか、やたらとよくじゃべる7人。ふとした会話の流れから、秘密があるとかないとか、そんな話になって、携帯のメールや電話のやりとりをみんなの前でやることに。メールは読み上げる。通話はスピーカーで。ところが誰しも思い当たるとおり、携帯はパンドラの箱。なんでも知ってるはずの親友同士、あるいは夫婦同士。なのに携帯がさまざまな「事情」を暴露していく。

複数夫婦の密室会話劇という意味では、数年前の「おとなのけんか」にとてもよく似ている。密室での会話のなかでさまざまな秘密が露呈していく、なんとなくうまく行っていた関係性がどんどん破綻していくという構図も含めて。私、この手の会話劇は大好物でして、この作品もとても楽しかった。早口なイタリア語で最初はとっつきにくいかもしれないけど、脚本がとてもよくて、ずっとハラハラさせられるし、数々のブラックユーモアに、特に後半は劇場のあちこちから遠慮ない笑い声が聞こえるほど。めちゃめちゃ面白い。

しかもそうしたユーモアのなかに、カウンセリングに対する偏見とか、同性愛に対する偏見とか、根深い社会課題が鋭く風刺されている。なるほどこれはよくできてる。前述の「おとなのけんか」も面白かったけど、これもまた大傑作・・・とはいえこんなにぐちゃぐしゃになった人間関係をどう収束させるのか・・・と思ったら・・・

【ここからは見てない人は読んじゃダメ】
なるほど、そう着地するのかと。月食の夜であったことがすごく利いてる。この映画自体があり得たかもしれないもうひとつの物語であったこと。実際にはその物語は(まるで地球に隠されたお月様のように)表に出ずに終わったこと。なんともおしゃれ!!
ただ!!何事もなかったかのように「日常」が続いていくことはたぶんそれなりに残酷なことで、よくよく考えるとほっとできるようでいて決してそうではない着地なのではないでしょうか。めちゃめちゃ怖い!!
そんなことも含めて、とても「大人」な映画。スマホに秘密が詰まってる、、、ってのはそれだけならチープなアイデアだと思うけど、それをこんなにスタイリッシュに、そして「残酷」に描いたのは見事だと思う。「大人」におすすめ。