ムーンライト

ラ・ラ・ランド」じゃなくてこっちに作品賞を出すアカデミーには良心を感じますが、、、これは日本では流行らないだろうなあ。

三人の俳優がひとりの黒人男性の人生を演じる。貧困。ドラッグ。育児放棄。人種差別。そして同性愛。深刻な社会問題を背景にしながら、淡々と進む物語。抑制のきいた演出、アート性の高い撮影、編集。この映画では誰一人としてワーワー叫んだり、ボロボロと涙を流したりはしない。しかしだからこそ、主人公の痛み、悲しみが深く染み込んでくる。言葉がなかなかでてこなかったり、なかなか目をあわせようとしなかったり、そんな細かい所作だけで三人で演じる主人公が同一人物であることに説得力を持たせている演技も見事だと思う。実に玄人度のみの演出。映画。映画好きにこそ愛される映画。だと思う。

しかしエンターテイメント性にかけることは否定のしようがなく、大衆受けはしないだろうとも思う。私が見たのはTOHOシネマズ新宿の一番小さいスクリーン、アカデミー作品賞作品としては異例の小規模公開で、客席が少ないので8割ぐらいは埋まっていたと思うけど、エンドロール後の劇場の雰囲気は「感動」とか「圧巻」とか「満足」とか、そういったものではなく、「当惑」だったように思う。日本人にとっては馴染みにくいテーマということもあるだろうが、あまりに省略の多い文法についていけないのだと思う。まあ実際、なんで主人公があれほど純情であり続けたのか、あり続けてしまったのか、ちょっとわかりにくいしね。。。

アカデミー賞!!をフックにガンガン売りたかった配給元や劇場にとってはとんだ肩透かしだろうし、映画産業界としてそれでいいのかって気はするけど。ただ僕個人としては、典型的なエンターテイメントである「ラ・ラ・ランド」ではなく、こちらに賞を出したいとアカデミー会員たちが考えたのもなんとなくわかる気がするんです。いまこの時代に映画がなすべきことはなにか。映画は社会に抵抗しうるのか。長く映画に関わってきた映画人たちに、そんなシリアスな思いがあるのではないか?? 思い込みかもしれませんが、そんな時代の空気を感じさせる映画でもありました(個人的にはこんな時代だからこそ、とびきりバカっぽいエンターテイメントも見たいと思いますが)。