タレンタイム 優しい歌

冒頭の学校のカットから素晴らしかった。いつの時代も、どんな町でも、学校は現実社会の縮図だ。多民族国家マレーシア。さまざまな言語がまぜこぜに話される賑やかな日常、しかしそこには、まるで地下水脈のように、決して消えることのない「わだかまり」が流れている。そんな学校で、蛍光灯の明かりとともに物語の幕が開ける。
マレー系、インド系、中国系。三人の少年の、それぞれの純真にひりひりする。家庭のなかに多様性を抱えこんでいる(お父さんがイギリス系で、お母さんがマレー系かな)ヒロイン、ムルーもたまらなくキュート(一家揃ってね、特に拗ねた感じの妹!大好き!!)。 脇役の一人一人(あのメガネとか!!)もたまらなく愛おしい。しかし根深い対立と不寛容が彼ら、彼女らを傷つける。とてつもなく幸せな時間ととてつもない不幸は常に隣り合わせ。牙を剥く残酷さ。何層にも重ねられた物語がついに舞台(タレンタイム)で炸裂し、静かな希望を残しながら収束する。
いまは亡き伝説の監督ヤスミン・アフマドの最高傑作。他の作品を見てるわけじゃないけど、その評価も当然のものと思えた。いろんな人がエドワード・ヤンの「クーリンチェ」に言及しているのもよくわかる。複雑な社会背景に向き合いながら、少年・少女の痛みを描く。こんな映画がまだ観られずに残っていたんだ。
蛍光灯の明かりが落ちていくラストシーンに涙が止まらなくなる。とんでもなく美しいものを観た。