わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい

センスがいい友達がいるというのはありがたいことで、自分だけでは出会えなかったであろう本に出会えたり、久しぶりに色々なもの、こと、感覚、その他を思い出したり。鴨居羊子。読んでるうちに思い出したけど、その友人がいなければ彼女の本を手に取ることはなかっただろう。感謝。

戦後復興期をたくまくしく生き抜いた下着デザイナーの半世紀。鴨居さん個人の圧倒的なバイタリティとともに時代の熱気を強く感じさせる。自分の感性を信じ、大きな勝負に挑んでいく姿には素直に尊敬を覚えるし、やっぱり時代をつくる人ってのはこういう迫力をもって、ものごとを考え、実践しているのだなあと。哲学がある。チュニックを立ち上げていくプロセスが描かれる前半はとくに勢いがあって面白い。

そして後半には、会社が「軌道」に乗るにしたがって孤独になっていく姿も描かれる。私自身は鴨居さんほどアバンギャルドな性格でもないし、社会的に有名だったり成功したるわけでもないけど、それでも「仕事」が自分の手を離れていく感覚はちょっとわかる。そしてその寂しさとか孤独も。

ちょっとだけ本音をいうとほんとうに最近不安なんだ。これから自分は何をやっていけばいいのだろう。このまま「仕事」を続けて自分にいったい何が残るのだろう。そんな甘ったるいセンチメンタリズムに喝を入れてくれる本でもありました。たぶん僕も、一生ものを書き続けるのだと思う。プランニングという不思議な商売の奥行きを探し続けるのだと思う。

あと、旅したくなったな。鴨居さんが旅のなかで下着への情熱を、表現すること、ものづくりへの情熱を再発見したように。惰性に流されがちな日々からもう一度跳躍するために。

わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい (ちくま文庫)

わたしは驢馬に乗って下着をうりにゆきたい (ちくま文庫)