ひなぎく

10分ぐらいの休憩を挟んでの二本目は「ひなぎく」。こちらもカルトムービーとして超有名な作品なのだが、僕はこれまで観るチャンスに恵まれてこなかった。昨年だったっけ?イメージフォーラムで上映してたのは知ってたんだけど、見逃しちゃったのよね。

で、やっと観れた「ひなぎく」は、これまたどえらい傑作だった。

映画がつくられたのは1966年のチェコ。つまりはこれも旧共産国でつくられた映画だ。

そしてこの映画は、いつも「ガールズムービー」の代表作として紹介される。あの小泉今日子や岡崎恭子が大好きな映画とか・・・。で、おしゃれでポップで、ちょっと甘ったるい映画を想像してると・・・

ヌーベルバーグ。一言でいってしまえばそうなんだけど、まるでポップアートのような光の操作、細切れのジャンプカット、いきいきと編集で遊ぶ映像には60年代の雰囲気が色濃く漂っている。主人公である姉妹の服装や髪型も(当たり前なんだけど)思いっきり60年代的で、これはもう超かわいい。かわいいんだよ〜(二人のルックスがどことなく某大阪方面のステキ女子二人組に似てるとも思ったり笑)。なるほど、これはガールズムービーとして評価されるわけだ。

映画の中で二人の姉妹が繰り広げる大騒動も極めて60年代的、ただ、彼女たちの振る舞いは、万人が諸手をあげて応援できるものではないだろう(そこが凡庸なガールズムービーとの違い)。人の良さそうな(でもエロそうな)ジジイを騙して飯を奢らせたり、せっかく奢ってもらった料理をぐちゃぐちゃに手でつぶして喰ったり、部屋の中で火遊びはするは、真面目に好意を寄せてくる男の子は笑いものにするは、もうやりたい放題好き放題・・・特に食い物を粗末にするのはいかがなものかと小一時間問い詰めたくなる人も多いのでは・・・

それでもこの映画を観た人が彼女たちに共振してしまうのは、そうした破天荒な行動の裏に漂う寂しさや切なさがしっかりと映りこんでいるからだろう。まるでパンクロック、そう、僕が敬愛してやまないパンクロックの歌声がそうであったように、彼女たちの無茶苦茶な行動の裏側には、行き場のない不満や倦怠、未来を想像するたびに襲ってくる不安、そしてなにより、生きていくことそのものにつきまとうどうしようもない寂しさが溢れている。

終盤、するどいハサミで互いを切りあうイメージショットがでてくるのだが、そのシーンは見ていられないぐらい痛々しかった。一見コメディ仕立てになってるんだけど、あのシーンは下手な切り株スプラッタなんかより全然痛い。

60年代といえば、日本でも「月曜日のユカ」とか「薔薇の葬列」とか、ものすごくエネルギッシュでありつつ、ものすごく「痛い」映画があるけど、「ひなぎく」もまた、そうした系譜に数え上げられる映画なのだろう。そして僕は昔から、そうした「痛み」に対して過剰に共振してしまう悪癖がある。

“踏みにじられたサラダだけを可哀想と思わない人々に捧げる”

最後に示されるクレジットは意味深だ。そしてオープニングとラストに使われる絨毯爆撃の映像もまた。この映画が爆撃してるものは何なのか。あるいはこの映画で爆撃されているのは誰なのか。

キン・ザ・ザに比べるとはっきりと敷居の高い映画。好きな人はたまらなく好きだろうし、苦手な人ははっきりと苦手だろう。後味も決して良くはない。でも、聞くと辛くなるのが分かってるのにどうしても聞いてしまう音楽があるように、観ると辛くなるのが分かってるのにどうしても観てしまう映画もある。

そういう意味で、60年代カルチャーを愛するおしゃれ女子、あとパンクロックにどうしても共振してしまう(僕のような)ダメ人間たちには〜、

お薦めです!!