日本3−1デンマーク

生涯忘れられない試合になると思う。

この試合がどれぐらい重要な意味をもっていたのか、普段、サッカーをご覧にならない方にどう伝えたらいいのだろうか。日本はサッカーにおいては圧倒的な後進国で、子どもの頃の僕たちは、正直、ワールドカップに日本が出場することさえ、うまく想像することができなかった。別世界だと思ってた。

はじめてのワールドカップ出場を決めたのは97年のジョホールバルの試合(考えてみればあのときも監督は岡田だった!)。延長戦、岡野がゴールをゆらした瞬間のことは今も脳裏に焼きついている。日本がワールドカップに出場する?? 今では当たり前になってるけど、当時はほんとに信じられないという思いで、その瞬間を見つめていた。その頃はもっと熱心に代表を応援していたこともあり、たぶん嬉しかった度合いでいえば、あの試合を超えるものには一生出会わないだろう。

でも今回の試合は、あのジョホールバルに匹敵するぐらいに嬉しかった。ひょっとしたらジョホールバルを超えてしまうかもしれないというぐらいに嬉しかった。

ついに、ついに、わたしたちの日本が、自国開催という特別な状況でなく、ごくごく普通のワールドカップで、決勝トーナメントに進むのだ。しかも(なんと偉大なことに)当たり前のように実力で相手をねじ伏せて!!

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序盤、デンマークは鮮やかなパス回しで日本を押し込んだ。いやな立ち上がりだった。あとになって実は中盤の構成を(4-3-3ではなく4-2-3-1に)変えていたと聞いたがこれが見事までに裏目。オランダ戦ではあれほど機能していた中盤の守備が崩壊し、面白いようにボールを回される。てか、さすがにデンマークのパスは早くて強い。

挽回のきっかけになったのは、ハチの一刺しのような大久保から松井へのパス。大会に入ってから突然機能しはじめた二人の両翼が、あわや先制というシーンをつくる。続いて素晴らしいキャプテンシーと闘争心でチームを牽引している長谷部のシュート。これは枠に飛ばなかったが、いやな流れを断ち切る契機になった。そしてようやく中盤に落ち着きがでてきた時間帯、あの本田がやりやがった。

この試合の本田は本当に素晴らしかった。なれないワントップながら、的確なトラップと強いフィジカルでボールをおさめ、さばき、決定的なチャンスを演出する。それだけでもスーパーなのに、こんな大事なところで直接あれを決めちゃうなんて。文句なくこの試合のMVP。

追加点の遠藤のキックも凄かった。遠藤って、ほんとに献身的だよね。良く走る。今の日本の中盤が機能してるのは、遠藤と阿部、この二人の天才肌のプレーヤーの献身によるところが大きいと思う。二人ともあんなに上手いくせに、びっくりするぐらい泥臭く走ってる。

2−0。引き分けでいい日本としては望外の前半。あせるデンマークは早めにパワープレイに切り替えてきたが、これまた、大会がはじまってから見違えるように良くなっている二人のCBがはじき返す。この日のトゥーリオと中澤には涙でた。常に体を張っての守備。PK以外にも何本か危ないのがあったけど、それも川島がはじきだす。流れを戻すスーパーセーブ。川島にはこれがある。

相手のエースをきっちりおさえきり、あがったときはシュートで終わることを徹底していた長友、常にいいところに顔を出して持ち前のクレバーさを見せつける駒野、これでこの日のスタメン全員の名前を挙げたと思うんだけど、そうやって全員の名前を挙げて褒めないと気がすまないぐらい、この日の日本は全員が素晴らしかった。

交代も的確。運動量的に負担の大きすぎる松井、大久保にかえて、岡崎、今野。どちらも試合をしっかりと締めくくろうとする意図が明確だった。PKで返されていやな雰囲気になりそうなところでの交代。しかも岡崎は(これまた本田のスーパーな切り返しから)点までとってみせた。完璧。まさに完璧としかいいようのない試合。

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それにしても岡田さんってのは面白い人だ。ジョホールバルのときもそうだったけど、追い込まれたとき、逆境にいるときに結果を出すことに関しては、この人はほんとうに凄いと思う。陰気な顔、不器用な言葉で、サッカーファンには受けが悪いけど(ごめん、おれもしょっちゅうクソ、メガネ、クソとかつぶやいてた苦笑)、冷静に考えると、本当に意味のある一勝って、いつも岡田さんがもたらしてくれてる。

この勝利が持つ意味はとてつもなく大きい。

これまでの日本は、強豪相手にいい試合をすることができても、最後の最後、どうしても勝ちきれない印象があった。その印象は、前回ドイツ大会、あの、思い出すだけで落ち込んでしまうあのオーストラリア戦で確信に変わってしまった。日本サッカー界を蝕んできた根深いトラウマ。しかし、この誇らしい代表は、そんなネガティブなトラウマを見事に断ち切り、堂々と決勝トーナメントに進んでみせた。これを歴史的勝利といわずして、何を歴史的勝利というのか!

サッカーはチームスポーツであることを証明したかった。

岡田監督の言葉は純粋にかっこいいと思う。選手個々人の技術や資質、それを組み合わせる監督の能力、相手チームの力量、長所・短所をさぐるスカウティングとそれを踏まえた戦略、そして選手・チームを支えるスタッフの力、サポーターの力。ありとあらゆる要素が奇跡のように噛み合ったとき、フィールドにマジックが生まれる。サッカーはほんとうに複雑で、魅惑的で、すてきな魔法にあふれている。

サッカーを好きになって良かった。

見事な朝焼けをみながら、そんなことを思った。