リミニ・プロトコル「ブラック・タイ」

友人が制作を手伝っている「世界の小劇場シリーズ」。金曜日の夜にリミニ・プロトコルの「ブラック・タイ」を観る。素晴らしかった。演劇をみてこんなに、震えるような感動を味わったのは久しぶり。

舞台は極めてシンプルかつミニマルなもの。おそらく80分ないぐらいの舞台だと思うが、その大部分は女性の独白である。観客に語り続ける女性は、韓国から「輸出」された孤児。ドイツにいても、韓国に旅しても、決して消えることのない違和感。どこにいてもどこにも所属することができない孤独。その孤独や違和感が、率直に、静かに語られていく。理知的で、静かな語りであるからこそ、アイデンティティを探し求める彼女の声が、観客の一番深いところまで響いてくる。

テーマについて真剣に語りだすと長くなってしまうのでそこは省略したいのだが、とにかく極めてシリアスなテーマをさらりと扱ってみせるセンスには驚愕した。すさまじく完成度の高い脚本、アート色が強く、ソリッドな映像や音楽、ボノdis(笑)に代表されるユーモア。なるほどドイツの演劇シーンがエキサイティングだというのは聞いていたが、これほどまでにレベルが違うとは!!

わずか80分程度の舞台で、僕はものすごく良く書けてる中編小説を読み切ったときに匹敵するほどの満足感を得ることができた。そういえばこの舞台におけるアイデンティティの問題の描き方は、どこか梨木香歩さんの小説を思わせるところがある。主人公の内にある分断の深刻さに真剣に共振しつつ、ユーモアと希望を捨てないあたりも、どこか梨木さんの小説のようだ。つまりは、僕の好みのど真ん中ということだ!!

実は、前日まで公演していたシー・シー・ポップはもっと良かったらしい。
世界の小劇場シリーズ、このクオリティの舞台を見せてくれるのなら、これからも可能な限り通いたい。本当に面白かった。