Peace

敬愛する想田監督の「観察映画」シリーズ、その番外編として発表された「Peace」をようやく観てきました。

ナレーションなし、テロップなし。台本なし。「番外編」とはいえ、いつもの観察映画のスタイルは、この映画でも踏襲されている。むしろ、これまでの「選挙」「精神」以上に、力の抜けた、自我を排したつくりになっているかもしれない。しかしこれまでの観察映画でもそうだったけど、想田監督の映画は極めて多義的で、私たちが生きている今現在のこの社会に対する豊かな問いに満ちている。

この映画から立ち上がってくる意味。それをもっとも直線的に解釈すれば、「戦争の時代も今もびっくりするぐらい軽く扱われている命があることに対するプロテスト」になるだろう。岡山で福祉車両の運転に携わる夫婦。彼らが輸送したり、助けたりしている障害者や老人たち。削減される予算。自らにもせまりつつある老い。そして唐突に語られる、戦争の記憶。。。

「わしらの命は1.5銭や」

執拗に繰り返される老人の言葉。その重たさにショックを受けたあとにラジオから聞こえてくるとある声。これはもうドキュメンタリーとしては奇跡の瞬間で、その時にどんな感情が湧きあがってくるのか。そこは観劇者の知識や感性に委ねられているし、だからこそ映画館で、それぞれにその瞬間を体験していただければと思うのだが、映画のもうひとつの軸になっている「猫社会の観察」(これがまた興味深いのだ!)も含め、僕としては、想田さんのメッセージは明快だったと思う。いつも複雑なようでいて軸は明快なんだよね。想田さんって。そしてほんとに猫が好きだよね。想田さんって(笑)。

もうひとつ。この映画のタイトル「Peace」だが、僕は映画を観る前には「PEACE」とか「peace」とか、そのときの気分で適当に使っていたんだけど、これはもうどうあっても「Peace」でなくてはならない。その理由も、ぜひ映画館でそれぞれにお確かめになってください。