矢野顕子 公開リハーサル

いやはや、すごいもの観た。なにはともあれ、まずは下の記事を読んでほしい。
http://www.1101.com/ongakudo/2010-02-10.html

ピアノを調教する??はじめてこの記事を読んだときはなんのことやら分からんけど、とにかく凄いという印象だったのだが、今日、はじめてあっこちゃんのリハーサルを観て、この記事が決して大袈裟ではないことが分かってしまった。

今回の公開リハーサルは、狛江市のエコルマホールで開催されたピアノ弾き語りのコンサートにあわせて企画されたもの。どこの計らいだかしらないけど、これにあわせて、市内の小学校3〜6年生と中学生、そして小学生に限り保護者一名を対象にリハーサルを公開してくれたものでした。たまには役に立つな〜、うちの息子も(笑)

で、ボールに到着してみると、さすがに100名を超える大盛況。てかあれよね、これ狛江だからこんな人数で済むけど、もっと都心でやったらえらいことになるよね。

係の人に、とにかく音を立てるな、リハーサルだから矢野さんも音には敏感、場合によっては公開を打ち切ることもあるとさんざん脅されてホールに入場。ステージでは若い調律師の方がずっと細かく音程をチェックしている。しばらくして係からもう一度脅し気味の案内。ステージに緊張感が漲る。しかして、あっこちゃんはTシャツにジーンズのラフな格好で現れた。

「いないつもりでやるからね〜」

いやもうあの声からしてね。なんだろ。普段しゃべる声からしてこの人は質が違う。倍音が多く、心地よい声。

ピアノの前に座る。パーン、高音部のキーを叩く。単音で。和音で。数度叩いたのち、「うーん、なんか・・・」細かい言葉は聞き取れなかった。ちょっとしっくりこないのだろうか。でも次の言葉はしっかりと聞こえた。「いいよ。弾きながら直す」。

え??これがあの昔読んだ記事の調教のこと??

そこからは60分間、ひたすらピアノと戯れる。途中から声を出していく。まるでピアノと呼応させるように。みずからの声のピッチを微調整するように。低いところからファルセットでの高音まで。これだけ自分の音程を自在にコントロールできるって、どんな気分なんだろう。わざとすこしフラットさせながらピアノとの響き方を確かめる。かと思えば唐突に高い音にピタっとあわせてくる。まとまって一曲をやるわけじゃないけど、ひとつひとつの和音の響き方を丁寧に確かめていく。それはバンドをやってた当時に自分がやってたリハとは全くの別物。PAとの会話なんてほとんどない。ひたすら、自分のピッチを確かめるためのリハ。

そして、以前ほどには耳の鋭さがなくなってるはずの自分にも、はっきりとピアノの響き方が変わってきたのがわかる。まさに上の「ほぼ日」の記事にあるとおり。ちょっとくぐもった印象のあったピアノの音が華やいでくる。倍音が鳴る。きらびやかに。艶やかに。

「もう時間かな〜」

さんざんピアノを鳴らしたところで矢野さんがスタッフに声をかける。ここまで矢野さんはほとんど休まずにピアノを鳴らし続けていた。しゃべってるときも。スタッフから声をかけられたときも(といってもスタッフは矢野さんを見つめるばかりで、ほとんど声をかけることなんてないんだけど)。途中でしっくりこない曲があれば、何種類かのコードを、その場で、即興で、試していた。恥ずかしながら、僕には何が変わったのかさえよくわからない。だってどれもハーモニーとしては完璧なんだもの。でもあっこちゃんはいくつものコードを試しながら最後にやっとしっくりくる響きを見つけたようで、「これ本番までに2番を書こうかな」とかおそろしいことをつぶやいている。同じ曲を何度も弾きこんで、ようやく自分のものにしてく僕には信じられない発言(でも結局は「やっぱやめとこ」とおっしゃってましたが)。さきほどの問いかけに「まだ大丈夫ですよ」と応えるスタッフの声を聞きながら、「うーん」とつぶやきつつ、ボロポロとピアノを鳴らし続けるあっこちゃん。その次の瞬間。僕にとってもとてもなじみ深い旋律が流れる。「電話線」。僕があっこちゃんのなかで一番好きな曲。

あのイントロをさっと弾き流してくれた瞬間。ほんとに背筋に電流が走った。この華やかな響き。優しく調和しながら、どこまでも広がっていく、どこからどう聞いても、矢野顕子だと分かってしまうあの音。ああ、あの記事は本当だったんだ。ほんとにあっこちゃんはピアノは手なずけてしまうんだ!!

満足気なあっこちゃんが「よし、本番よろしくお願いしまーす」と声をかける。

音をたてないように緊張していた客席からも一挙にため息のようなものがもれる。すごい。本物はこんなに凄いんだ!!となりで退屈してる息子を気にしつつも、僕も圧倒的なものをみたときの幸福感に包まれていた。

「面白いのかな〜これ」「拍手なんてしないで〜、自分のためだけにやってるからね〜」と気さくに語るあっこちゃん。でもこれは拍手せざるをえないよね。とんでもないものを拝見させていただきました。

本物の天才ってのはここまで凄いんだね。びっくりした。ほんとに。
最後に「電話線」へのリンクを貼っておきましょうか。この曲を発表したとき、彼女はまだ21歳だったんだよね。すごすぎるわ。