プリズナーズ

面白かった。エンターテイメントとしては間違いなく面白い。のだが。。。

まずは150分、最初から最後までまったくダレるところがない脚本を褒めるべきだろう。ネタバレ厳禁の映画なのでストーリーは省略するが、幾重もの意味を持たせた「プリズナーズ」というタイトルは見事。

撮影監督、ロジャー・ディーキンスの仕事っぷりにも惚れ惚れした。光と影のコントラスト。何を映して、何を映さないか。画面のどこに、何を映すのか。計算し尽くされたカット。やはりこの人は名匠中の名匠だ。

この絵を楽しめるだけで1800円なんて安いもの。しかもそこで躍動する役者たちの演技も素晴らしい!! 個人的な思い入れとしてはポール・ダノについて語りたくなるのだが、ダブル主演ともいうべきヒュー・ジャックマンジェイク・ギレンホール、それぞれの鬼気迫る演技は凄まじかった。脚本と演出、演出と演技、それぞれが相乗効果を発揮して、描かれるのは。。。


以下全力でネタバレなので未見の方は読まないで。

囚われている人(プリズナー)とは誰なのか。映画の最後に明かされる驚愕の事実はもちろんこの映画最大の「オチ」になっているのだが、そこには何層かの意味が隠されている。ここから先の解釈は人によるだろうが、僕には、この映画はアメリカ的な正義に関するいくつかの立場の、それぞれの拘泥(囚われ)を描いた映画に見えた。

娘をさらわれた父親は「備える人」として自分の理想とする父親像に拘泥する。彼の信念は明らかにキリスト教原理主義のそれを想起させる。破綻への備え。絶対的庇護者としての父親。自警の精神。それはアメリカのもっとも伝統的かつ根強い価値観ともいえるだろう。対する真犯人は、そうした伝統的価値、古典的正義への対決者として描かれる。犯人の動機がキリスト教的倫理(あるいは神)への挑戦であることは明白だし、それを神と悪魔の対決ととることも可能だろう。しかし僕は、この映画において、彼らは同類として描かれているように思った。彼らは、肯定するにせよ、反逆するにせよ、ともにキリスト教的倫理、あるいは伝統的アメリカの正義の強い呪縛のなかにいる(もっといえば伝統的アメリカ社会そのもののプリズナーとして描かれているように感じる)。

それではもうひとつの立場である刑事は何者なのか。意味ありげに何度も映されるフリーメイソンの指輪。北欧神話に由来すると思われるロキの名前。トリックスターであるロキは組織のなかでは孤立している。しかし、伝統的あるいは宗教的な価値観から距離をおく彼は、その合理主義と献身により、遠回りしながらも「真実」に辿り着く。

端的にいえば、この映画は父親と真犯人をともに伝統的価値観の囚人として描きながら、そこから自由な、リベラルなロキの立場を擁護する視点で描かれているように見えた。キリスト教原理主義が渦巻く「今」のアメリカで制作する映画としては極めて真っ当な決着だとも思うのだが、もうちょっと意地悪にもできたはずだよな〜という気持ちもまた捨て難い。

例えば真犯人に囚われていたあの人物たちが実はとても幸せな人生を送っていたとしたらどうなるだろう。あるいはロキが最後まで勝てない映画にしていたら。。。観る人はより深い混乱のなかに放り込まれていたに違いない。

性根が意地悪な自分としては、とても良くできた映画だと思いながらも、もう一ひねりしても良かったのではという気持ちがどこかに残る。