ジミー、野を駆ける伝説

大好きなケン・ローチ「ケス」は生涯ベストのひとつに入れてもいいぐらい好き。「麦の穂を揺らす風」も好きでした。新作が上映されるとなれば当然駆けつけます。

左翼を自認し、常に労働者階級に寄り添うケン・ローチ。政治的な志向が自分と重なりあうだけに、知性と勇気あふれる労働者層と悪意に保身に満ちたブルジョアや教会などの既得権益層という構図が明確に描き分けられると多少こそばゆくはなる。しかし、ケン・ローチの映画の魅力はその政治的スタンスだけにあるのではない。とにかくこの監督の映画は「光」の捉え方が抜群に上手いのだ。

今回も「ホール」に差し込む「光」の描写は見事だった。ジミーの再来とともに、柔らかに差し込む、光。牧師の複雑なキャラクターもとても良かった。

ケン・ローチらしい、美しく、優しい秀作。ただ、映画としては少し視点が単純すぎる気もしました。さまざまな「立場」の複雑さ、扱っているテーマの射程の長さという意味では「麦の穂」のほうが上だと思う。