ハクソー・リッジ

予告編から傑作の予感漂っていた本作。初日に行って来ました。いははや、すごい。ちょっと言葉にならないぐらいすごい。

部隊は沖縄戦のなかでももっとも苛烈な戦場のひとつとなった前田高地。その戦闘で、武器を持つことなく、人を殺すのではなく、人を救うことで英雄となった実在の衛生兵、デスモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィルド)の物語。

映画は彼の生い立ちから、なぜ彼が武器を持たないことにこだわったのか、それでも同時に、戦場に赴くことにこだわったのかを描いていく。彼はとあるきっかけがあって、「汝殺すなかれ」という戒律をとても大事にしている。一方で、真珠湾攻撃に心を痛め、誰もが戦っているのに僕だけが家にいるわけにはいかないと燃えてもいる。その理屈に頷けない人もいるだろうが(僕も自分の近親者がその主張をしていれば全力で止めると思うし)、彼は結局、衛生兵となることで「良心的兵役拒否(殺さないこと)」と「入隊(国のために戦うこと)」を両立させる道を目指す。基礎訓練でも銃を持とうとしないデスモンド。当然、上官や同僚は面白く思わない。徹底的にイジメ倒すことで除隊させよう(追い出そう)とする。しかし彼は、何があっても自分の信条をつらぬく。

この映画で一番大事なところをあえて省略するが、いろんなことがあったすえ、彼は衛生兵として前田高地での戦闘に参加する。その戦闘シーンは「地獄の黙示録」とか「プライベート・ライアン」とか「プラトーン」とか、「リアル」を追求してきた戦争映画の系譜に連なり、さらにそれを更新するものだった。凄惨なんてものじゃない。ぐちゃぐちゃの死体。銃弾の音。手榴弾の音。火炎放射器で生き身のまま焼かれる兵士たち。戦場の恐怖。戦場の狂気がこれでもかというほどリアルに描かれる。

そんな戦場のリアル、に追い詰められるデスモンド。そこで彼は再び自らに、神に問う。教えてください。私がやるべきことを。

このあたりで僕はもう、涙だけじゃなくて、なんか全身から発熱して、涙と汗でぐちゃぐちゃになっていた。最近寝不足なのもあるとは思うけど、映画が終盤を迎えるころにはゲロ吐きそうなぐらいぐったりしてた。映画館をでてからも足元がふらつく。すごい。すごいもの見たという興奮とともに、メル・ギブソンがこの映画を撮ったという事実にまた泣けてくる。

メル・ギブソンって、ご存知の方も多いと思うけど、アル中で、DVやらで何度も捕まったり、奥さんから訴訟起こされたりして、ほんとに人間としては最低の人なんだよね。でも一方で映画監督としては天才で。ものすごく信仰心が強い人でもあって・・・(ガーフィルドつながりもあって「沈黙」のキチジロー=スコセッッシをイメージさせますね)

そんなメル・ギブソンが、「信仰」の名のもとに人間がとりうるもっとも崇高な行為を描く。そこに自分がなれなかった「善良」な人への憧憬を感じないわけにはいかず、その切なさに泣けてしまうのだ。

デスモンドがこうした信条を抱くにいたったきっかけをこのレビューではあえて省略してるけど、実際の映画には丁寧に描かれています。あのお父さんはある意味メル・ギブソンそのものなんだよね。あのお父さんにリアリティがあることで、この映画は、ちょっと失敗すると実在感のない聖人君主になってしまいそうなデスモンドというキャラクターを、ひとりの等身大の人間とすることに成功しているのだと思う(もちろんガーフィールドの演技もすごい!!)。

誰にでも勧められる映画ではない。僕も何度も見たいかと言われるとちょっと微妙。だってすんげえ疲れるんだもん。。でも本当に観る価値のある映画だと思います。ほかの映画と比べるのに気がひける映画でもあります。毎年書いてる年末の今年の映画ランキングではぜひとも別枠にしたい。そんな特別な一本。重たい戦争映画はやだなーという人に無理強いするつもりはありませんが、ご興味あるかたはぜひに。