グリーンブック

予告編から気になっていた「グリーンブック」。上映前にアカデミー作品賞を取った影響は大きいのか、日曜日午前だというのに8割方の席が埋まる盛況ぶり。そして内容はというと、、、これが予想以上に素晴らしかった。

まずはイタリア人運転手兼用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンの佇まいが完璧。助演男優賞をとったマハーシャラ・アリもね。よかったよね、ほんとに。しかしこの映画の突出した魅力の源泉になっているのはなんといってもピーター・ファレリーとニック・バレロンガの共同脚本でしょう!!

コメディの衣をまといながら人種差別の本質にせまる。南部と北部。マフィア的なところも含めたイタリア系コミュニティ。シャバを生き抜く知恵としての「リップ」。それぞれに多少ステレオタイプかもと思わなくもないけど、嫌味なく、細かい台詞のやりとりだけで笑わせてくれる。食事がやたらとうまそうなのもこの映画の良いところ。ケンタッキー食いたくなるもんね笑(余談ですが朝の日比谷ということで客筋も良いのか、劇場の反応もとても良い感じでした)。

そしてなんといっても実話だというドクター・シャーリーのアイデンティティ。黒人であり、クラシックの教育を受けたエリートピアニスト。白人エスタブリッシュの仲間にもなれず、「黒人」にもなれない。リチャード・パワーズの名著「われらが歌う時」とも共通するテーマ。トニーが映画のなかで「お前はお城に住んでいる」と批判したときに見せる寂しそうな表情。それは警官に不当な扱いをうけるシーン以上に胸に突き刺さる。私たちが抱く差別意識の本質とは何か。。。

しかし映画はとてもハートウォーミングなラストを迎える。もちろん現実の差別は厳しい。いまなお続く差別の実態を厳しく問い続けることは重要だ。しかしこの映画は、こう終わるのが正解なのだと思う。厳しい現実のなかにあるわずかな希望。それを示すこともまた、映画というメディアの大きな力だと思うからだ。

トランプ以降のアカデミーが連続して「差別」そして「他者との対話の可能性」をテーマとする作品を作品賞に選び続けていることも印象に残る。いろいろと批判もあるアカデミー。しかしアメリカのエンターテイメント業界はしっかりとメッセージを発信していると思う。それがアメリカという国の層の厚さというか、強さなのだろう。

帰り道、久しぶりにカティサークを買った。ストレートでぐいっと飲んだ。記憶よりも少し甘い味がした。


【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告